インタビュー:久門剛史: ハワイ・トリエンナーレ2022

  • ハワイで2月18日より「ハワイ・トリエンナーレ2022」が開幕した。「Pacific Century - E Ho'ommau no Moananuiākea」と題された今回のトリエンナーレでは、ハワイの歴史や土地の持つ環境をテーマとした作品を中心に展覧会が構成され、オオタファインアーツからは久門剛史と半田真規が参加。このパンデミックの中、現地に滞在して制作を行った久門剛史にインタビューを行った。

  • Masanori Handa and Tsuyoshi Hisakado are participating in the Hawai‘i Triennial 2022 'Pacific Century - E Ho'ommau no Moananuiākea' which...

     Installation View: "Pause", 2022, Hawai'i Triennial 2022, at Royal Hawaiian Center

  • アーティストインタビュー:久門剛史

  • オオタファインアーツ(オ): 久門さんは開幕に合わせた滞在でしたので、ご帰国されたばかりとなりますが、コロナ渦において街中の様子など日本との違いはありましたか? 久門剛史(久): 考え方の違いが顕著に表れていたと思います。アメリカ政府の昨年の規制緩和により、Live with COVID-19 の考え方が強くなっている印象で、アメリカ本土からの旅行客もコロナ以前に大方戻っているようでした。街中ではマスクをしている人は多数ではなく、日本の様に閉店している店もほとんどなく、むしろ夜は大盛況で、路上でのパフォーマンスなども盛り上がっていました。開幕直前になると関係者の来訪などもあり、みなさんがこのトリエンナーレをとても楽しみにしている雰囲気が伝わってきて、かつての芸術祭直前の高揚感を思い出しました。 どれが正解かは判断しかねますが、現地に行って設営して作品を仕上げるという当たり前だったことのありがたみを再確認できたことはすばらしい体験でした。 別の話になりますが、日本の水際対策システムが複雑すぎて、調べれば調べるほど情報の泥沼にはまっていく感覚でした。一方でハワイ入出国の仕組みはシンプルすぎて拍子抜けする部分もあって、どちらも両極端かもしれませんが、民族性やその国々の社会システムを考える貴重な体験となりました。

    オオタファインアーツ(オ): 久門さんは開幕に合わせた滞在でしたので、ご帰国されたばかりとなりますが、コロナ渦において街中の様子など日本との違いはありましたか?

     

    久門剛史(久): 考え方の違いが顕著に表れていたと思います。アメリカ政府の昨年の規制緩和により、Live with COVID-19 の考え方が強くなっている印象で、アメリカ本土からの旅行客もコロナ以前に大方戻っているようでした。街中ではマスクをしている人は多数ではなく、日本の様に閉店している店もほとんどなく、むしろ夜は大盛況で、路上でのパフォーマンスなども盛り上がっていました。開幕直前になると関係者の来訪などもあり、みなさんがこのトリエンナーレをとても楽しみにしている雰囲気が伝わってきて、かつての芸術祭直前の高揚感を思い出しました。

     

    どれが正解かは判断しかねますが、現地に行って設営して作品を仕上げるという当たり前だったことのありがたみを再確認できたことはすばらしい体験でした。

     

    別の話になりますが、日本の水際対策システムが複雑すぎて、調べれば調べるほど情報の泥沼にはまっていく感覚でした。一方でハワイ入出国の仕組みはシンプルすぎて拍子抜けする部分もあって、どちらも両極端かもしれませんが、民族性やその国々の社会システムを考える貴重な体験となりました。

  • 出展作品《Pause》(2022)と《Crossfades #1》(2015/2020)は共に時間と関係する作品だと思いますが、今回のハワイ・トリエンナーレにこれらを選んだ理由があれば教えてください。

     

    久: アメリカでの発表が始めてなので、自分の代表作的かつ、伝わりやすい作品を選定したというのはありますが、そもそも《Pause》というタイトルをつけたインスタレーションは、自分が作家活動を始めるきっかけとなった出来事から来ています。2011年、日本では東日本大震災が起こり、それがきっかけで美術作家の活動にもう一度挑戦し、納得のいく人生を歩んでいこうと決断しました。中学生のときには阪神大震災も経験し、そういう大きな変化は人生でもう起こらないと思い込んでいましたが、今はコロナウィルスに直面し、再び現在地で足踏みしているような状況になりました。今回の作品は、今が決して完全停止ではない、一時停止した状態で、これまで絶対的だった様々なことを社会や生活の中で疑い、確かめながら、これからの人生について考えていこうとしている思考の世界を表現したいと思って制作しました。

     

    《Crossfades #1》については、当初は「知覚の解像度を上げる」というコンセプトで始まりましたが、今という始まりから、どのように人生を拡げていけることができるかを示唆したいという考えがあります。

     

    《Pause》も《Crossfades #1》もある種のタイムベースドの作品なので時間という共通点がありますが、別の視点で、そもそも永遠に続くであろう時間軸のなかで、唯一の人生をどう歩むかということは全人類に共通していて、何度か人生に大切な岐路がやってくる。その立ち止まるタイミングはとても貴重なんだということはどちらの作品でも表現したいと思っていることです。国外でもこの感覚が通用するのかということを確かめたいという思いもあって、これらの作品をハワイトリエンナーレで展開することにしました。

  • オ:《Pause》(2022)では空間が暗い青に淡く染まったかのような演出がなされています。このような試みは作品にどのような変化を与えましたか。 久: コロナでの自粛期間には、色を観察するようになりました。自粛期間中に家の中から窓の風景を見ることがおおく、それまで気づかなかった空の色や雲の変容、一年を通じての自然の変化に興味を持つ様になりました。 ハワイでの作品も、少しだけ光に色をつけました。今、神経美学という分野を勉強しています。人がなぜそれを美しいと感じるか、という”ふりだし”のようなお題で、そこからきているかもしれません。でも今回、作品に色をつけたのには、滞在していたホテルのベランダから毎朝見ていた海や空が綺麗だったということ、そして街中にある展示場所に向かう道中の賑やかさを通過した後に、作品を異空間として成り立たせる為にいつもとは違うアプローチが必要だと感じた、その2点が影響していると思います。

    :《Pause》(2022)では空間が暗い青に淡く染まったかのような演出がなされています。このような試みは作品にどのような変化を与えましたか。

     

    久: コロナでの自粛期間には、色を観察するようになりました。自粛期間中に家の中から窓の風景を見ることがおおく、それまで気づかなかった空の色や雲の変容、一年を通じての自然の変化に興味を持つ様になりました。

     

    ハワイでの作品も、少しだけ光に色をつけました。今、神経美学という分野を勉強しています。人がなぜそれを美しいと感じるか、という”ふりだし”のようなお題で、そこからきているかもしれません。でも今回、作品に色をつけたのには、滞在していたホテルのベランダから毎朝見ていた海や空が綺麗だったということ、そして街中にある展示場所に向かう道中の賑やかさを通過した後に、作品を異空間として成り立たせる為にいつもとは違うアプローチが必要だと感じた、その2点が影響していると思います。

  • オ: 事前の渡航が制約された状況は、サイト・スペシフィックなインスタレーションの制作にどのような影響を与えましたか。 久: もともとは「Fort Barrette BUNKER」という第二次世界大戦時に建設され、現在まで残っている元軍事施設での展示でした。分厚すぎるコンクリートで固められたマッシブな空間で、現在は立入禁止区域となっています。空間内はおそらく武器か弾薬などが置かれていたのでしょうか、線路が敷かれていました。日本とハワイには労働者としての移民、真珠湾攻撃、そして人気観光地という長い歴史がありますが、そういう関係性を勉強しながら、このコロナ禍での「癒し」をテーマに制作しようとしていました。 しかし状況は変わり、コロナ禍における経済悪化によりワイキキではハウスレスの人々が急増し、そのBUNKERに滞在するようになってしまい、展覧会の開催が不可と判断されてしました。その後、運営サイドの努力により、新たな展示場所として確保されたのが、ロイヤルハワイアンセンターの一角でした。同様にこの場所も以前はFOREVER 21の大型店舗で賑わっていたそうですが、コロナ禍によって閉店してしまいました。先進国では美術館や博物館がハウスレスの人々に占拠されたり急遽閉鎖されたりすることはなく、政府から守られている空間だと思いますが、今お話した2つの場所は直接的にコロナの影響を受けた場所であって、そういうグロテスクな背景は僕に精神的な影響を与えました。しかしそういった資本主義社会のシステムを直接的なテーマとするのではなく、やはり今でこそこの場所で「癒し」や「感覚」といった自分のテーマを継続させることに意味を感じました。

    事前の渡航が制約された状況は、サイト・スペシフィックなインスタレーションの制作にどのような影響を与えましたか。

     

    久: もともとは「Fort Barrette BUNKER」という第二次世界大戦時に建設され、現在まで残っている元軍事施設での展示でした。分厚すぎるコンクリートで固められたマッシブな空間で、現在は立入禁止区域となっています。空間内はおそらく武器か弾薬などが置かれていたのでしょうか、線路が敷かれていました。日本とハワイには労働者としての移民、真珠湾攻撃、そして人気観光地という長い歴史がありますが、そういう関係性を勉強しながら、このコロナ禍での「癒し」をテーマに制作しようとしていました。

     

    しかし状況は変わり、コロナ禍における経済悪化によりワイキキではハウスレスの人々が急増し、そのBUNKERに滞在するようになってしまい、展覧会の開催が不可と判断されてしました。その後、運営サイドの努力により、新たな展示場所として確保されたのが、ロイヤルハワイアンセンターの一角でした。同様にこの場所も以前はFOREVER 21の大型店舗で賑わっていたそうですが、コロナ禍によって閉店してしまいました。先進国では美術館や博物館がハウスレスの人々に占拠されたり急遽閉鎖されたりすることはなく、政府から守られている空間だと思いますが、今お話した2つの場所は直接的にコロナの影響を受けた場所であって、そういうグロテスクな背景は僕に精神的な影響を与えました。しかしそういった資本主義社会のシステムを直接的なテーマとするのではなく、やはり今でこそこの場所で「癒し」や「感覚」といった自分のテーマを継続させることに意味を感じました。

  • 今回のハワイ滞在を経て、新たに取り組んでみたい作品のアイディアがあれば教えてください。

     

    久: 今後、コロナと人類がどういう関係を築いていくのかは未だ不明ですが、実際にその現場に赴いて、要素を拾い上げながら空間を創り上げるというのは難しくなってくる可能性もあります。そのスタイルは尊重しつつ、作品の根源的な部分を揺るがさないまま、他の手段も見つけていかないと作品を届けることができなくなるかもしれません。

     

    映像作品を作ってこなかったのですが、映画のような作品は作ってみたいと思っています。空間を体験して、映画を一本見終わったような充実感のあるナラティブな作品の形態を考えたいと思っています。現実的には、長い回廊を歩く体験のようなことをイメージしています。今は立体や平面、人工的な光や風、音やプログラミングなど様々なメディアを使用しますが、さらにテキストや香り、湿度や温度など、それらを総動員して、心を揺さぶるような作品を制作したいと思っています。

     

    先述した、他の手段を見つけていかないと、というのは、デジタル化された移動性が高いものというのではなく、血が流れているような手触りのある物質で、現代社会のスピード感に翻弄されず、鑑賞者の神経に確実に届くものを見つけたいということです。

  • ハワイ・トリエンナーレ2022

    展覧会名: Hawai‘i Triennal 2022: Pacific Century – E Ho‘omau no Moananuiākea

    会期:2022年2月18日(金)~5月8日(日)

    会場:ハワイ市内

    トリエンナーレについての詳細は、こちらをご覧ください。

  • 久門は2022年夏、オオタファインアーツ東京にて個展を予定しております。

  • About the Artist

    1981年、京都府生まれ。2007年京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。人の営みを構成する根源的な感性や唯一性/永遠性に関心を寄せ、音や光、プログラミング、彫刻、絵画、大規模なインスタレーションなど多様な手法でコンセプチュアルな作品を発表している。作品を通じて鑑賞者の記憶や想像を共振させ、視覚や聴覚を研ぎ澄ますように促す。主な展覧会に「らせんの練習」豊田市美術館、愛知(2020年)、「58th Venice Biennale 2019」ヴェネチア、イタリア(2019年)「MAMプロジェクト025:久門剛史+アピチャッポン・ウィーラセタクン」森美術館、東京(2018年)、「アジア回廊 現代美術展」二条城、京都芸術センター(2017年)、「あいちトリエンナーレ2016」愛知県各地(2016年)など。チェルフィッチュの演劇作品「部屋に流れる時間の旅」では舞台美術と音声を担当。主な賞歴に、「メルセデス・ベンツ アート・スコープ2018-2020」(2018年)、「VOCA賞」(2016年)、「京都市芸術新人賞」(2016年)、「日産アートアワード2015 オーディエンス賞」(2015年)など。そのほか、文化庁「東アジア文化交流使」により中国へ派遣(2016年)。

     

    作家の詳しい情報は、こちらより弊廊のホームページ をご覧ください。

  • Available Works

  • 開催中の展覧会

    開催中の展覧会

    展覧会名: 「サンセット/サンライズ」 

    会期: 2022年2月15日 - 5月8日
    10:00 - 17:00 (入場は17:00まで)
    休館日=月曜(3月21日は開館)

    会場:豊田市美術館

     

    詳細はこちらをご覧ください。

  • 展覧会名: 「ドラフト・ライブラリー in 明窓館 書を拾い、喋るでしかしッ!」 会期: 2022年4月19日 - 4月27日 11:00 - 18:00 休館日: なし *4/24(日)はオープンキャンパスのため開場 会場: 京都精華大学ギャラリーTerra-S 主催: ドラフト・ライブラリー実行委員会 詳細はこちらをご覧ください。

    展覧会名: 「ドラフト・ライブラリー in 明窓館 書を拾い、喋るでしかしッ!」 

    会期: 2022年4月19日 - 4月27日
    11:00 - 18:00
    休館日: なし *4/24(日)はオープンキャンパスのため開場

    会場: 京都精華大学ギャラリーTerra-S
    主催: ドラフト・ライブラリー実行委員会

    詳細はこちらをご覧ください。