草間彌生|モノクローム

Overview

米誌「タイム(TIME)」が発表した2016年版「世界で最も影響力のある100人」にて日本からただひとり選出された草間彌生。2014年には「The Art Newspaper」が発表した世界の美術展の入場者ランキングを元に「世界で最も人気のあるアーティスト」と評され、翌2015年にも大規模な回顧展が東アジア、中南米、北欧諸国を巡回しました。さらに2017年以降、北米巡回展や東南アジア巡回展が予定されているなどその勢いはとどまるところを知りません。

本展では草間彌生のモノクロームの世界観を「無限の網」と呼ばれる絵画シリーズを中心にご紹介いたします。一見、白やグレーで塗られた単色の平面にみえますが、近づくと緻密な筆致で描かれる無数の弧の集積が画面を成していることがわかります。ひとつひとつの弧が孕む凹凸や濃淡によって微妙に変化し続ける表面は、強い物質性を保ちながら限りなく繰り返されるリズムを生み、鑑賞者の視線を釘付けにします。
草間彌生は今日、水玉や南瓜などのモチーフ、カラフルでポップな作品でよく知られていますが、その原点はモノクロームの「無限の網」のシリーズにあるといえます。1959年、ニューヨークではじめて発表された同シリーズは、黒い背景を白い網目で覆い尽くし、一層の白でグレーズするという手法で描かれました。その高い独自性と芸術性は「日本人であり、女性」という作家としての物珍しさを超越し、ドナルド・ジャッドやドア・アシュトンら美術評論家たちの賞賛を浴びます。
草間によると「水玉」の集積を反転したものが網の目であり、両者はネガポジの関係にあります。これらのパターンの反復手法の出発点はどこにあるのか。 ―カンヴァスに向かって網点を描いていると、それが机から床までつづき、やがて自分の身体にまで描いてしまう― 幼少期から身の回りが網や水玉などの同じ模様で覆い尽くされるという幻覚に襲われていた草間は、強迫観念に駆り立てられながら同じモチーフを繰り返し描くことで、自らの内的イメージを解放し恐怖を克服してきたといえます。
世界的な芸術家となった現在も折りにふれ原点に立ち返るように描かれる「無限の網」は、草間にとって重要な作品群であることが伺えます。本展のために描かれた新作3点を含む5点の「無限の網」と、「水玉」1点をこの機会に高覧ください。

草間彌生は20世紀後半の重要な美術運動であるポップアートとミニマリズムの先駆として高く評価されてきました。絵画、ドローイング、コラージュ、彫刻、パフォーマンス、映像、版画、インスタレーション、エンバイロメンタルアート、また文学やファッション、プロダクトデザインなど領域を軽やかに飛び越え、今なお精力的に新しい作品を生み続ける様は世界の人々を魅了します。
1929年に長野県松本市に生まれた作家は、京都で日本画を学んだ後、1950年代後半に渡米。刺激的なハプニングや展覧会を通じて、1960年代なかばまでには前衛芸術家としてのキャリアを打ち立てます。1980年以降、国際的な個展を通じて広く知れ渡るようになり、1993年の第45回ヴェネツィア・ビエンナーレで再評価の機運が高まります。以降NY近代美術館(MoMA)、テートモダン、ポンピドゥーセンターなど世界中の美術館で個展を開催。現在は、ストックホルム近代美術館にて北欧巡回展「IN INFINITY」が開催されています(2016年9月11日まで)。作家の80年近いキャリアの全容を包括的に網羅する同展は、これまでルイジアナ美術館(デンマーク)、ヘニー・オンスタッド美術館(ノルウェー)を回り、10月にヘルシンキ市立美術館に巡回します。


* オープニングパーティーはございません。

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