樫木知子
オオタファインアーツでは、金沢21世紀美術館での個展『アペルト05 樫木知子 ~Daydream~』にあわせ、近作による樫木知子展を開催いたします。
樫木の描く人物像は、部屋や庭といった密閉的な空間に配置され、人とにじみ出る存在感を絵画表面に閉じ込めています。作品は主にアクリルで描かれ、描いた画布の上をサンダーで削り、再び描くというプロセスを経て、滑らかな絵画表面と幾重にも重なる色層の背景を獲得しており、一見日本画と見まがうような平滑なテクスチュアと流麗な描線から生み出されるスタイルが見受けられます。
本展でもそのスタイルは一貫して変わりませんが、怖さと美しさが表裏一体となった独特の世界観はさらに深められています。作家の近年の作品は、様々なテクスチャーの折り重なりの中で、色彩がより力強く鮮やかになってきています。さらに、その絵画空間にはおぼろげな「ねじれ」が存在しているために、そうした力強さは一方向的にではなく、拡散的に伝達します。また、彼女が「自分の周りのすべてを作り上げることに専心するあまり自分の体が文字通り溶けてしまう」あるいは「風景の中へ蒸発する」と言及するように、作品の多くには人物が描かれていながら、人物と環境の境界は物質的にどこか曖昧で、透明です。そのため彼女がしばしば作品内に表現する「風」とともに、多くの匿名の記憶と風景が、そのような幽霊的な身体を通り抜けていく感覚を鑑賞者は受けることになります。そのとき、わたしたちの記憶でさえも、彼女の作品に共通して見られる執拗な「襞」のように、作品内へと織り込まれていくのかもしれません。そうした鑑賞体験のなかで、私たち自身のアイデンティティも溶け出して、作家の表現する世界、そして作家自身のアイデンティティと混ざり合い、一体化するのです。
その結果として、樫木の作品はさながら白昼夢のように鮮烈な印象を残す絵画となります。そこには、思い出せない遠い過去の記憶、あるいはまだ見ぬ未来が示されているのでしょうか。「私の作品は特別な意図を前提にしているわけではありませんから、解釈の彼方で年齢や性別や国籍を超え、限りなく多くの人を魅了することができればと思っています」と樫木が言うように、彼女の作品はそれぞれの出自に左右されることなく、溶け出すような白昼夢へと鑑賞者を誘うでしょう。作家の豊かな想像力による、軽やかで同時に濃密な絵画を本展で是非ご高覧ください。
樫木知子は、1982年京都生まれ。京都市立芸術大学美術研究科の修士号、博士号の両方を取得し卒業。
過去にGalerie Nathalie Obadia での個展(パリ、2015年)、『高橋コレクション展:ミラー・ニューロン』(東京、2015年)、『the 7th Asia Pacific Triennale of Contemporary Art』(ブリスベン、2012年)、『ヨコハマトリエンナーレ』(横浜、2011年)、『Bye Bye Kitty!!!』(Japan Society Gallery、ニューヨーク、2011年)などに展示されています。さらに、the Museum of Old and New Art(タスマニア、オーストラリア)、Queensland Art Gallery/Gallery of Modern Art(ブリスベン、オーストラリア)、そしてトヨタアートコレクションをはじめとする公私コレクションに収蔵されています。
* オープニング・パーティはございません。
連動企画情報
「アペルト05 樫木知子 ~Daydream~」
金沢21世紀美術館
2016年9月17日(土)-2017年1月9日(月)
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Tomoko KashikiYellow Hill, 2015Acrylic, ink, wall paper, Washi (Japanese paper), single-side glazed paper, linen, wooden panel227.3 x 181.8 cm
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Tomoko KashikiI was Once Full of Birds' Feather, 2014Acrylic, linen, wooden panel130.3 x 97 cm
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Tomoko KashikiMy Tree, 2015Acrylic, ink, pencil, sand, linen, wooden panel130.3 x 97 cm