一束のより糸、舌が背負う困難: リナ・バネルジー
新しい言語を学ぼうともがくとき、舌は私たちになまりがあることを教えてくれる。この舌の妙技には、自意識や自信も、新たな故郷の新たな言語を舌がしっかり捉える悦びさえも落ち着かず、振り回される。異国の地で亡命者あるいは難民として生を享受する身には、振り返れる安住の故郷などない。月並みな歓迎の台詞やとげとげしい悲痛な口調さえ地から湧き上がるやさしい囁きだ。なぜ、故郷からの距離で自分たちのアイデンティティを測ろうとするのか。故郷は果たして全ての起源だろうか。あなたと私は旅路の歩みを一歩一歩数えてきた。辿った道を振り返り、自分たちが自分である証を皮膚、舌、髪、背の高さといった人間特有の尺度で測ってきた。歳月で風化した道から外れた私には、なぜ人は老いぼれると皆似てきて、たがいの違いに無頓着になるのかがもう分からない。難しい言葉の異邦人と肩を寄せ合ったほうが自分がわかる。旅の曲がりくねった道はどれも「自分に正直であるか」という問いに通じている。自分たちの起源ではないどこかを真のホームとして地球の一部ではないと感じるほどに、同じ地球に住む私たちは違うのだろうか。
オオタファインアーツでは、リナ・バネルジーの東京で二度目となる個展を開催します。インドに生まれ現在ニューヨークを拠点に活動するバネルジーは、伝統的なテキスタイルやファッション、植民地時代のオブジェクト、歴史的建造物、民族学、神話といった様々なものを取り入れ、多文化的なコミュニティーや都市で育った自身のバックグラウンドを融合させることで文脈を与えて作品を制作します。
バネルジーは近年、釜山ビエンナーレ(2016年)、「Greater New York」MoMA PS1(2015年、2005年)、第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2013年)、第7回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2012年)、横浜トリエンナーレ(2011年)、ホイットニー・ビエンナーレ(2000年)など、多くの国際展に参加し活躍の場を広げています。