マリア・ファーラ: Maria Farrar
2023年2月18日より水戸芸術館現代美術センターで開催されるグループ展『ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術 ―いつ・どこで・だれに・だれが・なぜ・どのように?―』への出展を記念して、オオタファインアーツ7CHOMEではマリア・ファーラの近作と現在の作風に至る以前の旧作4点を紹介します。
ファーラが描くのは、日常でふと目にした場面や記憶の断片から構築される新たな情景です。通りのパン屋を覗く女性、窓越しの庭、鏡台に散らばる化粧品―。切り取られた一瞬は具体的でありながら、とらえどころのない浮遊感と広がりを感じさせます。使われている彩度の高い油絵具は、支持体のリネン生地の暗色地に置かれることで、より深く強い色調になります。人物の太い輪郭線、書道的な筆の払い、かすれ・にじみ、それらとコントラストをなす繊細な細部描写。多彩な筆使いが混在することで、画面にリズムをもたらしています。そうして浮かび上がる愛らしいモティーフは、それぞれの場所で存在感を放ち、ファーラの作品を特徴づけています。ファーラは、画面のクローズアップや、余白の扱いや筆法に日本的な趣を指摘されてきました。彼女自身、「技法、色、主題において『東』における伝統(書道、マンガ)に『西』由来の新たな道筋(生リネン、大判の油彩画)を掛け合わせる(もの)」と語っていますが、その言葉からは日本で培った視点と感性に自覚的であることが覗えます。