River: Tsuyoshi Hisakado

Overview

オオタファインアーツでは、東京では4年ぶりとなる久門剛史の個展を開催します。阪神淡路大震災や東日本大震災を体験した久門にとって、人間の叡智をはるかに超える自然や宇宙の法則についての考察は制作活動のひとつの根幹と言えます。田園風景が広がる京都・亀岡にスタジオを構える久門は、豪雨などの厳しい天候や野生動物に翻弄されながらも、それらが地球という大きなシステムの秩序にのっとって有機的に機能していることを日々体感し、一方で人間が定めたルールはその秩序から外れていっているのではないかという思いを抱いてきました。今展における新作の発想は、久門がこれまで一貫して追求してきた永遠性・唯一性そして人の感覚を共振させる「美術」を根底に据えながら、自然・地球そして宇宙への関心と日常生活における気付きに端を発しています。

 

久門は今展を「River」と名付けました。古代より人類の文明の源となってきた河。気候変動が叫ばれる現代においては、文明が長い年月をかけて育んできた秩序をいとも簡単に押し流し、新たな秩序を上書きしてゆくのもまた河です。新作の平面作品において、久門は円周率を示す小さな数字をらせん状に連ねます。一枚の紙からスタートした数字のらせんは何枚もの紙にまたがって広がり、次第に壁全体を満たしてゆきます。止まることなく続く永遠の数列は、途中で幾度も分断されバラバラになりますが、その破片がまた大きなひとつの流れとうねりを作り、新たな河を構成してゆきます。

 

今展では、複合的な素材による構成のなかで光を印象的に用いたふたつの彫刻作品も展示します。ネオン管の細い光は、一方の作品では横に並んだガラスケースをまっすぐに突き抜け、他方では穴の開いた板や球体を載せたオブジェをゆるやかに繋ぎながら輪を結びます。モノたちを躊躇なく貫いて進む光の様子は、人の作った秩序や境界を破り、此方の世界と彼方の世界とを繋げる風穴を開けているようでもあります。石や粘土などと等価な彫刻素材と呼び久門が好んで使用する“光”もまた、原子レベルの無数のエネルギーの痕跡であり、河と同じように人智を超えた大きな流れを生み出し、人の歩みを顧みずに絶え間なく流れ続けます。

 

さらに、これまでにも多用してきた振り子と極小のルーペを組み合わせた新作も発表します。一定の速度を刻みながら振り子状に揺れる小さなルーペが読み取るのは、ふたつの単語です。私たちはどちらの方向に進むべきか。対立かトランジションか。それは、自然、気象、国家、国境、様々な秩序が崩壊の様相を見せるなか、大きな岐路に立つ私たちに向けられた問いのようです。時間という止まることのない大きな流れのなかで、常に選択と判断を迫られる私たちの姿を映した作品と言えるかもしれません。

 

地球全体が大きな軋みを見せる今、“河”のような不変の流れのなかに新たな秩序の構築を探ろうとする久門の実験的な試みを、どうぞご高覧ください。

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