Overseas: マリア・ファーラ

Overview

海外労働者の声の多くは耳に入ってきません。彼らは芸術家でも政治家でもなく、家族を養うために黙々と仕事をこなしているのです。彼らはこの世界において目に見えない静かな存在ですが、彼らがいなければ社会は機能しません。

オオタファインアーツでは、マリア・ファーラの個展『Overseas』を開催します。日本では2回目の個展となる本展では、新作ペインティング約20点を展示します。1988年、フィリピン人の母とイギリス人の父との間にフィリピンで生まれたファーラは、2歳から15歳までを日本で過ごし、現在はロンドンを拠点に活動しています。

 

ファーラは、しばしば後ろ姿の女性像を描いてきました。ベーカリーや楽器店のショーウィンドウを覗き込んでいた女性たちは、新作では海の向こうや、サーブするテーブルの方に顔を向けています。彼女は本展において、海外労働者や移民に焦点を当てています。《テラスのある部屋》は、もっとも直接的に、海外で働くことをテーマにした作品です。広いテラスの床を磨く途中、客人の落としたピアスに気づいた客室係の緊張が描かれます。毎日忙しく働く客室係には、雄大な海を眺め、望郷に嘆息する時間などありません。ファーラは、日本やイギリスで「外国人労働者」として働いてきた母を見守る自身の複雑な気持ちを作品に重ねます。強い輪郭線や大きな余白がもたらす浮遊する感覚など、これまでの作品に顕著だった様式もここでは影を潜め、対象の陰影を丁寧に追う筆致が見られます。

 

新作群は海を越え、言語も生活習慣も異なる異国の地にて働く孤独の中で、逞しく生きる姿への深い共感と尊敬から描かれたものであり、誇りを持って働くフィリピンの女性への讃歌です。ぜひ、ご高覧ください。

Works
Installation Views