Sleepless Tonight: Chen Wei

Overview

オオタファインアーツでは、東京で4年ぶりとなる中国人作家チェン・ウェイの個展をオオタファインアーツとオオタファインアーツ7CHOMEの2か所で開催いたします。中国の80年代生まれを代表する作家として北京をベースに活動を続けるチェンは、写真を主たる表現方法に用いて作品を発表してきました。オオタファインアーツでは日本で初となる写真、ビデオ、LEDという異なるメディアの作品を組み合わせた展示を行います。

 

チェン・ウェイは自身が見た実際の街の光景をスタジオにセットとして再現し、それを撮影します。この虚と実がないまぜになった世界観はチェンの作品制作にとっての核と言えるもので、彼が敬愛する安部公房、梶井基次郎、フランツ・カフカなどの文学の世界観と共通するところがあります。この制作手法は、今展の写真作品にも踏襲されています。

 

中国における都市の急速な発展と変容とをテーマにチェンが取り組んできた「New City」シリーズの最終章となる本展では、パンデミックを経た今、中国に見られる社会の変化を示唆するかのような作品を発表します。《Front Door Nail》(2024)では、ドアが開きかけて外光が見えているものの、ドアの前に置かれた電球がそれを妨げています。暗い部屋を照らす小さな希望のような電球が、床に打ち付けられた釘のように外の世界に通じるドアが開くことを拒むというこのパラドックスは、コントロールされた状況下で暮らす人々の閉塞感を想像させます。《Front Door Nail》の暗い室内とは対照的に、花束や陽の光の明るい色調が特徴的な《Flowers of Silence》(2024)では、誰かが送ったプレゼントが家の外に放置されています。相手を思う気持ちすら届いていないことを示すこの作品は、コロナ禍における人々の物理的な隔絶を経てさらに明確になった現代社会のコミュニケーション不全を反映したものと言えるでしょう。

 

日本で初めて展示されるビデオ作品「Light Me」シリーズ(2021)では、人々の孤独がさらに一層際立ちます。薄暗い部屋のなか、パソコンやスマートフォンの液晶画面をひとり眺める人物の様子が映し出されるこの作品では、人の生気を全く感じさせない無機質な空間で液晶画面の放つ仄明るい光の色だけがゆっくりと変わってゆきます。時を封じ込めたはずの写真に別の時間軸が加わったかのような表現は、チェンの新しい局面を感じさせるものとなっています。

 

LED作品「Trouble Garden」シリーズ(2024)は、日本の枯山水の庭園から影響を受けて制作されました。ランダムに光が点滅するLED盤の光は、これまでのチェンの作品では中国の街によくある故障した電光掲示板を表象してきましたが、今展では蛍や波紋などを思わせるものへと役割を変えています。チェンの作る庭園は、機能不全に陥ったかのようなLED盤で構成されますが、問題を抱えた個人や社会で構成された世界そのものであると捉えることもできます。

 

チェンによると、彼にとって光とは色であり、色とは情緒や感情の発露の結果です。写真、ビデオ、LEDという異なるメディアを使いながら、その全ての作品がチェンによるものとわかるほどの特徴的な光や色を伴った表現が一堂に会することで、展示空間をひとつのインスタレーションのように変貌させ、鑑賞者を彼独自の世界へと引き込みます。チェン・ウェイの虚とも実とも取れる世界観を、この機会に是非ご高覧ください。